補6.焼酎

補6.焼酎


膵臓の腫瘍をご覧下さった方は、ご存知の事と思いますが、文字通り九死に一生を得ました。

今後の検査結果によっては、又最悪の場合も考える必要がありますが、人間誰しも一瞬先のことも解ら無いので気にしても仕方がありません。ピラミッドの中に入った時以来、またまた人生観の一変、と言っても所詮は凡人、高尚なことを考える筈も無く、死ぬ時に呑み足らなかったという後悔だけはしないでおこうと決心しました。

ところで過日兄から同世代の人で日本酒を飲んでいる人は居なくなった、焼酎に変わった、という事を聞きました。

主として健康上の問題だそうです。今までだと健康上良いと聞いただけで、興味を失いましたが、これも気持ちの変化でしょうか、俄然焼酎に興味を持ちました。

たまたまホテルで食事をする機会があり、メニューに焼酎があって米、麦、蕎麦とそろっていたので早速水割りを頼みました。

結果はがっくり、匂いと癖が強いだけで水を飲んでいる様で、いくら健康に良いと言ってもこれでは飲めそうも無い、はっきり言って不味いの一言でした。

その後ステーキ店に行った時、今度はロックを頼んでみました、水割りだと薄すぎたと思ったからです。

吉四六という麦焼酎でしたが、これなら飲めない事も無い、先日は水割りで薄すぎたからかそれとも品物が違うからかと考えながら、お代りをしていると店の人に芋焼酎を勧められました。

とにかく初心者だから出来るだけ種類の変わったものが良いと、飲んでみるとこれが美味いのです。これなら日本酒に代えてもいけると嬉しくなってお代りを頼んでいると、今度はこれを飲んで見ませんかと別の芋焼酎を出されました。これも又また美味く感じられるのです。

これで決まり明日からは芋焼酎に決めたとすっかりご機嫌になりメートルを上げていると、京都の超一流のホテルで修業をしてきたという料理人が、今飲まれているのは森伊蔵といってプレミアム付きでもなかなか手に入らないものです、或るお客様の注文でやっと手に入れ口切をした後ですのでお出ししたのです、先のほうも伊佐美と言って幻の焼酎と言われているものですと説明してくれました。

途端に値段の事が気になり一度に酔いが醒めましたが、うちは肉が主役なので飲み物ではそんなに高く頂戴していませんと言われて安心しました。

帰ってすぐネットで探すと、あるはあるは焼酎のホームページが山ほどあり、森伊蔵が飲み屋でなく酒店でも定価の約8倍それも品切れなどが判りました。

翌日からお酒の量販店、スーパー、デパート巡りです。日本酒なら一箇所で有名な品が各種手に入りますが、焼酎は蔵元が小さいのか大手の卸を通さず、直接特約販売店に卸しているのが多い所為、各販売店に置いてあるものが偏っている様で、多くの種類を集めるためにはたくさんの店をまわらなければならず苦労しました。ネットで申し込めば良い様ですが、初めはやはり実物を見てからと言う事です。

本屋もまわって焼酎関係の本を十二冊買い求め勉強しました。肝心の焼酎も、黄白黒の各麹の芋、米、麦の他に黒糖、泡盛もそれぞれ何種類か購入し、ロック、お湯割、燗などで比較検討しました。

酒器も焼酎に合うのとなると今まで長い間かかって集めた自慢の日本酒やビールのはすべてだめ、洋酒のロック用も何か変、結局安物ですが大正時代のプレスグラスのコップがロック用として妙に合い、お湯割りの方は茶箱に仕込んでいた三島唐津蒲柳水禽象嵌塩笥小服茶碗を転用しましたが、より良い品を求めてアンチークの店や骨董屋巡り、おかげでこの二ヶ月ほどは胃だけではなく、頭の中も焼酎でいっぱい、随分と楽しめました。

もし膵臓の腫瘍が悪性だったら今ごろは望みの無い手術をした後、ベッドで死を待っていた筈と考えると今日一日焼酎を胃にいっぱい入れてベッドで寝られるだけで幸せと思っています。

結局選んだ焼酎ですが芋でした。そして原料にその地方の芋を使用しているものです。かなり気に入った品が有ったのですが外国からの冷凍芋を使用している写真を見て怖くなりました。たまたま週刊誌で外国産野菜の農薬使用の激しさと検査員の不足で検査が不充分という事を読んだのと、千葉の牛がやはり検査不充分の輸入飼料で狂牛病になった事や外国製の薬が副腎皮質ホルモンを記載に反して入れていた事を知ったからです。

また本格焼酎泡盛ガイドによると、甲類の輸入酒に砂糖が混和されていながら、表示のないものが見受けられるそうですが、これって糖尿病患者には命取りと思います。

輸出用は内容について嘘八百を書いても死ぬのは日本人と言う事でしょうか。

それからもしこのホームページを焼酎業界の人が見たら、森伊蔵を大切にして下さい。昔日本春蘭が流行したとき、安積猛虎という蘭が信じられないような高値をつけ、それにつられて日本春蘭全体の人気が沸騰しました。ある有名な人が殆ど買い占め値段を維持したのですがその人が無くなってから暴落し、日本春欄の人気も無くなりました。

相撲も憎らしいほど強い横綱が居るときは人気絶頂で、前頭あたりがいくら強くても駄目です。森伊蔵も越の寒梅の数倍の値を維持し、そのうえ手に入らないからこそ焼酎全体の値打ちを上げているのだと思います。絶対に桶買いをしたり輸入の原料を使用したりしないように願いたいものです。先日お酒の安売り店であの偽者騒ぎまで出た某日本酒が山積みにされているのを見て何か将来の日本酒と焼酎の関係を見たような気がしました。

以前野球の落合選手が非常な高給を取り批判がましい事を言われたとき、これが野球選手全体の地位のアップにつながるのだというような意味の事を言ったと記憶していますがその通りだと思います。

それにしても最近の割高な720ml瓶と、注文するのも気恥ずかしく為るような変に凝った命名は行きすぎだと思います。

楽しませてくれた焼酎業界の人達へお節介かもしれませんが、お礼のつもりで付加えました。

呑み始めてから一ヶ月程で二十種類程の焼酎を呑み比べました。一度にあまり沢山の種類を比較すると酔ってしまい訳が判らなくなるのでこの程度が限界でした。

味と香りが微妙で複雑過ぎて私の貧弱な語彙では到底正しく表せないので、単に美味い不味いと言う事で10段階評価を行いました。

しかし二ヶ月程経つと、評価が変わってきたのです。初めの頃不味いと思ったのが段段と美味くなって来たり、美味いと思った中にそれほどでも無くなったのが出て来ました。

考えてみると百叩きのビギナーが名門ゴルフコースを批評する様なもので、何でこんな所にバンカーがと思っていたのが、上達するにつれて意味が判って来るようなものと思います。

恥ずかしくなったので私の著名焼酎評価表は当分の間お蔵入りとなりました。

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